創業塾:第三章:まっすぐ歩くには

3-1:余裕を持って計画的に(準備に半年は掛かる)

 思いついたその日から事業を始めることができる場合もあります。しかし多くの場合は、周到に準備することが必要であり、時間が掛かります。事務所や店を探すには時間が掛かります。どこでも良いならともかく、費用対効果を考えて良い場所を選ぶとなると、半年は見ておいた方が良いでしょう。許認可を必要とする業種であれば、申請から完了するまでの手順や時間を調べておくことが大切です。融資を受けるには審査を受けることになるので、着手から融資実行まで、三か月程度は見ておいた方が良いでしょう。

 自己資金を貯めるにも時間が掛かります。開業までに必要な費用一切(初期資金)と、当面の運転資金(利益を回すことができるまでの期間分)が、幾ら必要なのか計算しておきましょう。自己資金としては、その半分程度は必要です。半分程度の自己資金があれば、審査にもよりますが、融資を受けられる可能性があります。逆に言えば、必要資金の半分程度もなければ、融資審査は門前払いされてしまう可能性が高いと考えておいた方が良いでしょう。

 市場を調査・分析し、競合について調べるにも時間が掛かります。調べたから成功するわけではありませんが、事実を知って判断するべきであるという前提に立つと、一定の調査は必要です。現在の仕事と同業の起業であれば、事前の根回しや円満退職のための動きなども必要でしょう。そんなやっておくべきことを一覧化し、開業目標時期を設定して、逆に線表を引いてみましょう。飲食店の開業なら、その前の一週間を試行開業とし、その前に保健所の許可を得て、その前に内装工事を終えて(一か月)、その前に…。作業が抜けていて後で慌てることになったり、想定より時間が掛かって後ろのスケジュールを圧迫したり、そんなことにならないよう、しっかりと計画しましょう。

 

3-2:将来を見据えて計画しよう

 事業を始めると、ついつい目の前の問題に目を奪われがちです。そんなとき、経営者の反応は極端に分かれがちです。一方は、他人の意見を聞かずに頑固に自分の思いにこだわる人。逆の極端は、他人の意見に惑わされてあっちへ行ったりこっちへ行ったり腰の定まらない人。どちらも良くないですね。平均台や綱渡りで成功するには、足元ではなく先を見ることだそうです。先を見据えてこそ足元が定まるのですね。

 他人の意見を聞かない人は、それによって軸がぶれることを恐れているのでしょう。きちんと長期的な方向性を定めていれば、拠って立つところがあるので、恐れずに向かい合うことができます。他人の意見に左右される人は、足元が見えず不安なのでしょう。行き先を明確にして、現在の位置が目標への進路に沿っているかどうかが分かれば、冷静に他人の意見を評価できるので、惑わされることが少なくなります。

 考えすぎて行動できない人はずっと始められませんが、闇雲に歩き出すことも危険です。きちんと進むべき方向を明確にしてから歩き出すようにしましょう。将来を見据えて計画するようにしましょう。計画して考えているけれども、悩んで決まらなかったら?その時は、まず動き出せばよいのです。そして歩きながら考えればよいのです。

3-3:理念を明確に:どこに行くのか

 言い換えれば目標地点です。目標地点が不明確であれば、歩き出すことができませんし、歩き出してもフラフラと無駄な動きをするだけです。経営を山登りに例えれば、「どこの山に登るかを決める」ということです。近所の山か、高尾山か、富士山か、エベレストか、…。

 経営書や起業の本では、理念は色々な使われ方・定義の仕方をされています。どれが正解ということはないのですが、ここでは次の切り口(整理の仕方)を推奨します。

(1)  使命:世の中から、どのような理由で必要とされる存在になりたいのか

(2)  目標:遠い将来、どのような姿になっていたいか(具体的な数値で)

(3)  価値:世の中や社員に向かって表明する、組織としての価値観(約束)

 理念(進むべき道)が明確になれば、現状との比較を行い、その差(ギャップ)を課題として、課題解決を検討することができます。到達すべき山が決まれば、どのような道筋を辿って到達するのかだとか、どのような装備を揃えるのかだとか、あるいはその前に体力をつける必要があるとか、そういったことが明確になります。これを戦略と言います。

3-4:環境分析:現実を知る

 いわゆるSWOT分析です。内部環境(自分で変えられる環境、外部組織との関係性を含む)の、「強み」(Strength)、「弱み」(Weakness)を洗い出します。外部環境(自分では変えられない環境)の、「機会」(Opportunity)、「脅威」(Threat)を洗い出します。外部か内部か、良い要素か悪い要素かは、立場によっても変わるので、あまり厳密に悩む必要はありません。とにかく現実を把握することが大切です。

 「強み」は、他社と比べる必要はありません。自社の中で比較的得意なことを挙げましょう。「弱み」は、挙げると切りがないことが多いので、何かをしようとするとき必ず制約になるようなことだけに絞りましょう。「機会」は、自社に有利な状況を探しましょう。「脅威」は、自社に打撃を与えるような、あるいは自社の動きを制限するような事象を挙げましょう。ただし、ピンチはチャンスという言葉もあります。「機会」や「脅威」は絶対的ではないことを意識しておきましょう。

 なんとなく思っていたことも、改めて挙げてみることで見えてくることがあります。また、経営者が思っていることと、従業員が思っていることが違うこともあります。どちらが正しいというより、視点によって異なることが分かるだけでも成果です。現実を把握することが大切なのですが、「現実」は1つとは限らないという面もあるのです。

 

3-5:事業計画:進む道筋を決める

 理念を整理して目的地点を明らかにしたうえで、SWOT分析により現実を把握することが出来たら、どうやって目的地点に達することができるのかを考えます。理想と現実のギャップ(課題)を明らかにし、それを解決する方向性を決めるのです(戦略)。戦略は長期的であり全体的な視点で作り上げます。目の前の競争に勝った負けたではなく(勝つための方策は「戦術」)、結果的に到達するための方策が戦略なのです。

 長期計画は10年程度先を見据えて立てましょう。達成目標を決めて、体制(組織)を整え、投資と収益を計画しましょう。ただし事業環境は変化するので、途中で見直しをすることが重要です。最初に決めたとおり遮二無二突き進んでも、環境が激変すれば意味が無くなります。そして中期計画として3年程度先の目標を立てましょう。こちらは、より具体的に設定し、責任と権限を明確にし、必達目標としましょう。そして、より現実的な翌年度の計画を立てます。部門毎に目標を割り振り、個人の目標に落とし込み、課題を明確にし、実現するために工夫します。

 事業の遂行には、リスクマネジメントも重要です。事業計画においては、リスク項目を洗い出し、リスクへの対応を決め、対応するための資金を用意しましょう(予算化しましょう)。現実から目をそらした、都合の良い予測に基づいた「だろう運転」は危険です。リスクを把握し、「かもしれない運転」を心がけましょう。

 

3-6:収支計画:金が尽きれば

 事業計画に含まれるものですが、あえて別項目で記述します。実行するための計画を立てても軍資金がなければ戦えません。今あるからといって使ってしまっては後から困るかもしれません。「商売は水物」と開き直るのではなく、きちんと計画を立てましょう。計画と実績が異なれば、その違いの分析をしましょう。そして計画の精度を高めていきましょう。

 売り上げ予測は、なるべく積み上げ方式で計算しましょう。製造業や卸・小売りであれば、単価x数量(大きな種類毎)が基本です。飲食店やサービス業なら、席数x有効率x回転率x営業日数x平均単価で月商が計算できます。また、季節要因等の変動要因も考慮しましょう。売上に原価率を掛け合わせれば原価が出ます。そのほかの一切合財の費用は、販売管理費として個別に積上げましょう。ただし借入金の返済は費用として認められないので、販売管理費には当たりません。

 売り上げが立っても回収できなければ意味がありません。入金の予定も設定しましょう。費用の支払時期と金額も設定しましょう。この段階で借入金の返済や税金の支払いなども考慮します。これにより、資金状況が把握できます。どの程度使えるのか、あるいは不足するから融資などで運転資金を調達しなければならないのか、が分かります。