創業塾:第四章:創業にあたって知っておくべきこと

4-1:個人事業主か法人か

 自分自身が事業主として事業を進める形態が個人事業主です。事業を行うのに(一部特定の事業を除いて)特に制限はなく、誰でも始められます。特定の会社の仕事を、その指揮命令下で行うようであれば、それは事業主ではなく雇用されている労働者ですが、成果にのみ責任を負えばよいのが事業主です。もっとも、成果を出せなければ報酬も得られないのですが。また、内職も成果で報酬を得るので労働者ではありませんが、事業主でもありません(第三の形態です)。顧客と契約するときには、自分の立場がどうであるのか(雇用されるのか事業の取引相手か)明確にしましょう。

 事業主体として人と同じような権利義務を負わせる存在として法律で特別に認められたのが法人です。人は生まれながらにして人ですが、法人は法律で認められた限りにおいて存在できるのです。株式会社、社団法人、財団法人、NPO法人、…。いろいろな法律が色々な法人を定義しています。その中でも事業主体として一般的なのは株式会社でしょう。事業主体はあくまで法人であり、代表者といえども法人の経営を委任されて実行するという存在にすぎません。オーナーであるという面もあるでしょうが。

 個人事業主でも法人でも事業はできますが、消費者相手の事業であればあまり関係ありませんが、企業と付き合うのであれば信用力の点で株式会社などの法人にしておいた方が良いでしょう。個人事業主はその人が事業を離れると終わってしまいますが、法人なら後継者を指名して継続することができるためです。また、拡大を目指すなら法人化しておいた方が良いでしょう。そのほかに税務上の有利不利もどちらにするかの選択条件に関係しますが、個別の問題になるので税理士に相談してください。

 

4-2:創業にあたっての手続き

 個人事業主として始めるのであれば、特に何も必要はありません。株式会社などの法人を設立する場合には、公証役場で定款を承認してもらってから法務局で登記するなどの手続きが必要です。個人事業主であっても法人であっても、業種によっては許認可が必要です。また、国税局(税務署)などには、事業を始める届出が必要です。

 許認可が必要な事業であれば、手続きをきちんとしておきましょう。時間のかかるものもありますから、計画性が大切です。主な相手先は、保健所、地方自治体、警察署、などです。事業内容ではなく形態によって(移動販売など)許認可が必要な場合もあります。

 人を雇うのであれば、労働保険や社会保険への加入手続きが発生します。たとえアルバイトであっても労災保険は必須です。一定の条件で(ほとんどの場合)雇用保険も必要です。個人事業主で従業員5名超で一定の事業を除いて、多くの場合に社会保険(健康保険や厚生年金)に入ることが必要です。

 

4-3:契約書や押印、収入印紙などの基礎

 仕事を受ける時には契約書を交わしましょう。事業として受ける場合は、大きく、売買契約と請負契約と委任契約に分かれます。売買契約は名前の通りです。請負契約は何かの成果物に対して支払いを受けるものです(一般に完成させないと支払われません)。委任契約は成果物ではなく能力が期待されて誠実に遂行することにより支払われます。契約書を交わすことを嫌がる(面倒がる)顧客もいますが、契約が無理であっても、メールのやり取りを残したり、勝手に注文請書のような形で確認のために送ったり、仕事の範囲や金額や支払い方法などを明確にして、後々揉めないようにしましょう。

 契約書などに使う印鑑は一般的には実印です。個人事業主の場合は地方自治体に個人の印鑑として登録します。法人の場合は法人代表者の印鑑を登録します。ちなみに契約書のような場合ではなく見積書のような書面に使う者として、会社印を作ることがあります(一般に四角いので角印と言います、実印は丸印)。印鑑は、押す目的で色々な使われ方をします。訂正する際の訂正印、複数ページの契約書の統一性を示すための契印、複数契約書が一連のものであることを示す割印、収入印紙を使用済みにする消印などです。後日の訂正のためにあらかじめ押しておく捨印というものもありますが、勝手に修正されてしまうので、行政や金融機関等を除いて、押さないようにしましょう。

 契約書など、金額が載っている証明書には一定の条件で収入印紙を貼ることが税法上求められています。貼らなかったり不足したりしている場合は脱税になるので気をつけましょう。また、再利用を防ぐために消印を押しておきましょう(実印ではなく単なる書き込みで可)。

 

4-4:経理の基礎

 個人事業主であれ法人であれ、事業の実態を把握するために、経理が必要です。税理士に顧問になってもらうか、個人であれば地域の青色申告会に入るかして、きちんとした帳簿をつけるようにしましょう。自分ですべて行うのであれば、簿記3級程度の知識は必要です。

 売上は、実際に現金が入ったかどうかにかかわらず、その事実が発生した時点で計上します(帳簿に付けます)。売上に対応する仕入費用や労務賃金等が原価と呼ばれる費用です(基本的に売上に比例して変動する費用)。そのほかに、営業担当者の給料など売るための費用が販売費、事務所経費や事務員の給料などを管理費、合わせて販売管理費と呼びます(多くの場合、売れなくても発生するので固定費です)。儲けるためには、売上を伸ばし、変動費率を下げ、固定費を削減することです。経営者であれば、売上、原価、販売管理費、程度は把握しておきましょう。

 借入金がある場合、その元本返済分は費用になりません。利益の中から(もっと正確には税金を引いてさらに残ったものから)返すことになります。また、経理上は利益が出ていても、売上は現金回収に関係なく計上するので、実際に現金があるとは限りません。経理上の儲けを正確に記帳するとともに、現金残高も把握しておく必要があります。売ったけれど回収できてないものを売掛金と呼びますが、売掛金ばかり増えて支払が重なったら、儲けていても黒字倒産ということがあり得ます。資金繰りは細心の注意を持って、しっかりと正確に把握し、予測しましょう。

 

4-5:主な税金の基礎

 事業の利益に対して、法人の場合は法人税(所得税)が掛かります。これは国税であり国税庁(税務署)に対して申告します。決算期は法人の側で決められます。個人事業主の場合は、利益から各種控除を行った残りに対して所得税がかかるので確定申告をする必要があります。1/112/31が対象です。同じく国税である消費税は、売先から預かった消費税から、仕入などの購入時に含まれている支払済消費税分だけ引いた金額を納める必要があります。課税義務の有無や申告方法など詳しいことは税務署にお問い合わせください。

 法人の場合は地元の自治体に法人事業税と法人都道府県民税を納める必要があります。利益が出ていなくても支払うことがある(たとえば東京都の均等割分)ので、ご注意ください。個人の場合は、個人事業税と、事業主であるか否かに関わらず支払う必要のある住民税とがあります。

 税金を支払ってないと、地方自治体の制度融資を申し込む際などに不利益を被る場合があります(申し込めないなど)。また税金は他の債務より優先順位が高く、自己破産しても免責されませんし、逃げられないものなので、不利益を被る前にきちんと支払っておいた方が良いものです。

 

4-6:融資の基礎

 融資とは金融機関から資金を借りることです。民間には、都市銀行、地方銀行、信用金庫、信用組合、などがあります。政府系金融機関として、日本政策金融公庫、商工組合中央金庫、などがあります。融資の利息が金融機関の儲けになります。儲けの中で経営していくとともに、回収できなかった分も負担しなければなりません。だから金融機関は、返してくれる企業に貸すのです。

 返してくれる企業とは、事業がうまくいって利益の出ている企業です。あるいは資産がたくさんあって多少の赤字ではびくともしないところです。または、今後の事業の成長がかなり確実視されるところです。金融機関によって審査基準はいろいろでしょうが、おおうねこのような条件で判定されます。また、第三者の連帯保証人が求められたり、不動産の担保を提供したり、民間金融機関の場合は保証協会という組織の保証をするよう求められたりします(保証料が掛かります)。いざという時に回収不能になる確率を下げているのですね。

 創業時は実績がないし資産もないことが多いので、事業の成長性(確実性)が問われます。そのために、しっかりとした事業計画が必要です。夢物語では金を貸してくれません。夢は持った上で、到達するための実行計画(戦略)がしっかりしているかどうかが大切なのです。事業計画を受け取った金融機関の融資担当者が、その上司や審査部門に胸を張って説明できるような計画を立てましょう。